mizusumashi-tei みずすまし亭通信

黄金週間前に図書館の予約本が届いたので連休前半は、サラ・パレツキーのヴィク・ウォーショースキー・シリーズ第21作『コールド・リバー(2024)早川ミステリ文庫』を読んで。2年に1作のペースで出版されているので、このシリーズは40年ほども続いていることになる。

 

最初は探偵(警察)という男社会への挑戦みたいなテーマだったものが、いつの頃からか移民たちがらみの事件が多くなってきた。主人公のヴィク自身もポーランド系にルーツを持ち、そうしたコミュニティーを支えることも生活の一部としている。

 

ちょうどパンデミックの最中のシカゴを舞台に、移民たちの心のよりどころともいえる古いシナゴーグ乗っ取り事案や、ヴィクの愛犬ぺピーが瀕死の少女をみつけ病院に救急搬送されるが、その少女が病院から失踪すると、なぜか警察の不可解な介入とともに殺人事件が起き、容疑者としてヴィクは追われることに…

 

原著/Sara Paretsky : OverBeard(2022)

 

このシリーズの読みどころのひとつに、理不尽な社会権力や差別に対する女探偵ヴィクの激しい怒りの描写にあるのだが、近作では(歳のせいか)やや丸くなった感じがする。怒りもまた多大なエネルギーが必要なのだ。現地アメリカでは5月に新作が出版予定とのことで、2年後の翻訳出版を楽しみに待ちたい。

 

ところで、日本で翻案映像化するとしたら松たか子を推すかな。自立する女性にして時にハードボイルドな荒事も辞さない性格なので、わが国の女優に該当者は見当たらないが、映画『告白』や『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ(2009)東宝』の松たか子の演技力に期待してみよう。

 

そうそう。今どきの米国ティーンはコミック本のことを「グラフィック・ノヴェル」というらしい。

里見弴:陥没(1924)大阪毎日新聞

 

里見弴が大阪毎日新聞に連載した『陥没(1924)全150回』後に『凡夫愛』と改題され出版された。里見弴といえば『里見弴 小津映画原作集 彼岸花/秋日和(中公文庫)』が出版されているとくれば、作風は小津的人情の機微を描いたものが多いらしい。

 

「らしい」と述べたのには、実は里見弴とは不縁であまりきちんと読んだ記憶がない。有島武郎・生馬を兄に持ち、兄の友人志賀直哉の強い影響を受け『白樺』創刊に参加という筋・育ちの良さに反感を持ったか? 新聞小説の切抜きを入手後数年してようやく製本する始末である。

 

ただ『陥没』の書き出しは、前年(大正12年9月11日)の関東大震災勃発時から始まっていて興味がわく。黄金週間の時間つぶしにしようかな。

 

里見弴:陥没 第1回/煙雲

 

挿絵を担当したのは清水三重三で、いつもとタッチが違うのでちょっと驚いたものの、確かに大震災の書き出しなのに、いつもの細ペンを使った小唄調子ではね。もっとも当時の挿絵師はさまざまなタッチで描き分けたていたから問題はなかったのだろう。そういえば、舟橋聖一『白い奔流』の挿絵なども描いている。

 

 

 

地震のシーン

 

 

美緒子

 

ちょっと(大正末・昭和初期的)フォーヴっぽいタッチで、騒然とした火事場を表現している。もともと(歌舞伎絵で鍛えた)三重三の女性画には定評があり、ここでも遺憾無く発揮している。三重三の原画や書籍を幾点か所蔵しているので機会があったら紹介したい。

菊池寛:真珠夫人(1920)大阪毎日新聞

 

菊池寛のベストセラー小説『真珠夫人(全196回)』の新聞切抜き。本作品は後に延々と「昼ドラ」の原型としてリメイクされ続けた名作です。卑劣な奸計に落ち金満家の妻とならざるを得なくなった唐沢瑠璃子の復讐譚で、今となっては甘々のドラマとはいえ、当時の女性の熱狂はすごかったといわれます。

 

その後「真珠夫人もどき」が叢生すると「昼メロ」へと形を整えていくことになる。いま読んでもわりとサスペンスフルで読ませてくれますね。菊池寛おそるべし。

 

連載第1回 奇禍その1

 

『真珠夫人』については以前に紹介した。菊池幽芳の新聞小説『彼女の運命』の切抜きを再製本したついでに、こちらも。挿絵は鰭崎英朋。挿絵は大正(1〜2年)に入るとハイライト製版といって、いわゆる写真版が登場する。いままでは筆やペンによる白黒画線で描いていたが、ハーフトーンの使用が可能となり陰影が加わった。

 

このころまでは、多く浮世絵系の絵師が挿絵業界を担ったが、この製版技術の確立によって洋画系の挿絵師なども誕生する。大正末になると若き岩田専太郎といった新世代が次代の挿絵を担っていく。

 

 

 

 

鰭崎英朋の挿絵

 

現在、菊池寛といえば短編『恩讐の彼方に(1919)』や戯曲『父帰る(1917)』で知られるばかりだが、真に実力を発揮したのはこうしたエンタメ作品だと思う。菊池寛の作品を落語化した春風亭小朝の『菊池寛が落語になる日(2022)文藝春秋』など読むと、小朝はそこらへんを見抜いているね。

JUJU : Hello, Again~昔からある場所  Music Video

 

YouTubeから唐突に『JUJU : Hello, Again~昔からある場所』のMusic Video が流れてきて、よくみると10年ちょっと前の橋本愛さんです。ちょうど、湊かなえ原作の映画『告白(2010)』に出演したころの映像で「そーかぁ」って、それだけなんですが、なんだかため息がでます。

 

 

 

大山桜? 夕方← →朝

 

ソメイヨシノがすっかり散りはてた後に、八重桜と同じころに咲き馴染める桜がある。建物にへばりつくようでかわいそうだが、樹形の美しい姿が目をひく。大山桜?かなと思うのだが、桜は品種が多くわからない。交差点の角に位置していて大きくなりすぎると伐られるじゃないかと心配している。

 

真っ白な桜

 

10日ほども前に満開を迎えた真っ白な桜で、大島桜かエドヒガン系なのか? わかりませぬ。名前がわからないというのは、なんとなく「所有した感」がないというか、つまらないものです。桜の品種は300種ほどもあるそうなので、どうせ覚えきれないでしょうが。早々に桜の時間が通り過ぎていきます。

 

枝垂れ桜

 

ソメイヨシノ

誉田哲也〈ジウ〉サーガ・シリーズ

 

誉田哲也の〈ジウ〉サーガ・シリーズは10巻目『ジウX(2023)中央公論新社』は図書館本を借りる。貸出の予約を入れた時点で待機順番が百数十番目という案内にびっくりした。途中までは一応新刊書を買って読んでいたのだが、近年本が溜まるのが苦になってきて。若い人は買って読んでね。

 

歌舞伎町の(警察が手に負えない)闇の犯罪を「必殺仕事人」たる7人のグループ「歌舞伎町セブン」が仕置きする… 内容なのだが『国境事変(2007)』あたりから、日本の国家安全保障問題を扱うようになってきて、政治経済界を巻き込む謎の結社「世界新秩序」とゼブンとの暗闘が徐々に煮詰まりつつある。

 

誉田哲也:ジウX(2023)中央公論新社

 

イラストは以前、黒木メイサと多部未華子主演でドラマ化された折のもので、原作は真正面にヴァイオレンスを打ちだしたことからスプラッターなシーンが過激で、その世界観を映像化するのは難しい。書き込みもリアルなので心臓の弱い人には進められないが、近作はややオブラートに包まれてきた感はある。

 

ドラマで黒木メイサが演じた伊崎基子(ミサキ)は「歌舞伎町セブン」の一員として、ほとんど殺人マシーンと化し黒木メイサをして情感がありすぎる状況にある。そこで「虚無的無表情にして格闘技が似合う女優さんは誰?」と以前書いた。仕上りのいいエンタメ本なので、ぜひヴァイオレンスの極北をみせて欲しい。