菊池寛。真珠夫人 鰭崎英朋の挿絵 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

菊池寛:真珠夫人(1920)大阪毎日新聞

 

菊池寛のベストセラー小説『真珠夫人(全196回)』の新聞切抜き。本作品は後に延々と「昼ドラ」の原型としてリメイクされ続けた名作です。卑劣な奸計に落ち金満家の妻とならざるを得なくなった唐沢瑠璃子の復讐譚で、今となっては甘々のドラマとはいえ、当時の女性の熱狂はすごかったといわれます。

 

その後「真珠夫人もどき」が叢生すると「昼メロ」へと形を整えていくことになる。いま読んでもわりとサスペンスフルで読ませてくれますね。菊池寛おそるべし。

 

連載第1回 奇禍その1

 

『真珠夫人』については以前に紹介した。菊池幽芳の新聞小説『彼女の運命』の切抜きを再製本したついでに、こちらも。挿絵は鰭崎英朋。挿絵は大正(1〜2年)に入るとハイライト製版といって、いわゆる写真版が登場する。いままでは筆やペンによる白黒画線で描いていたが、ハーフトーンの使用が可能となり陰影が加わった。

 

このころまでは、多く浮世絵系の絵師が挿絵業界を担ったが、この製版技術の確立によって洋画系の挿絵師なども誕生する。大正末になると若き岩田専太郎といった新世代が次代の挿絵を担っていく。

 

 

 

 

鰭崎英朋の挿絵

 

現在、菊池寛といえば短編『恩讐の彼方に(1919)』や戯曲『父帰る(1917)』で知られるばかりだが、真に実力を発揮したのはこうしたエンタメ作品だと思う。菊池寛の作品を落語化した春風亭小朝の『菊池寛が落語になる日(2022)文藝春秋』など読むと、小朝はそこらへんを見抜いているね。