mizusumashi-tei みずすまし亭通信 -2ページ目

橋本治:双調平家物語 文庫本自製カバー

 

橋本治『双調平家物語』文庫本全16冊の内、終盤13-16巻のリサイクル本を図書館からいただいてきた。当然ながら表紙はラミネートされ、管理シールに加えリサイクルシールまで貼られ、にぎやかなので自製カバーを制作。表紙絵に月岡芳年『月百姿/月の四の緒 蝉丸(1891)』を使った。

 

解説を加えた懇切丁寧な『窯変源氏物語』に比べると、こちらの『双調平家物語』は淡々と物語していて、平重盛の死なども清明な語りが印象的だ。

 

 

 

岸田劉生:美の本體(1941)河出書房

 

和紙に木版装の岸田劉生『美の本體』は一年ほど前に前橋市の古本屋さんで購ったもの。表紙や用紙の手触り、劉生自身による装釘が気に入り、時折書棚から取りだしては、眺め、触り、拾い読みを愉しんでいる。劉生の装釘はたいがい過剰感に溢れているのだが『美の本體』はほどほどで。

 

 

 

豊嶋康子作品集 1989−2022(2023)書肆九十九

 

図書館で見つけた『豊嶋康子作品集 1989−2022』は「豊嶋康子 発生法─天地左右の裏表(2023,12.9─2024,3.10)東京都現代美術館」大規模個展の開催に合わせて刊行された。「豊嶋の30年以上におよぶ作品制作を網羅し、カラー図版450点を豊嶋による作品解説とともに記録した作品集」とある。

 

豊嶋の理知的な作品群に似合ったとても美しい造本で、発行は「書肆九十九」とある。2021年にできたばかりの出版社らしく現時点での出版点数は多くない。代表者は小田原のどか。本作品集のデザインは小池俊起、編集は櫻井拓、小野冬黄さん。今後の出版に注目したい。

菊池幽芳:彼女の運命(1923-24)大阪毎日新聞

 

菊池幽芳の新聞小説『彼女の運命』の切抜きを再製本した。挿絵は絶頂期の鰭崎英朋が担当していて、この挿絵については以前にも紹介している。幽芳の回想によると異常なまでの好評で、すぐに4社が競作し映画化され1932年に再映画化された。すべてサイレント映画とのことである。

 

菊池幽芳:彼女の運命 新聞切抜き


 

鰭崎英朋の挿絵

 

明治中頃から流行りだした「家庭小説」に位置づけられるもので、昭和の「昼メロ」「よろめきドラマ」はその後裔といってよく、菊池幽芳はそのジャンルのスター作家でした。そして、その幽芳とコンビを組んだのが鰭崎英朋で、大正初期あたりまでは鏑木清方も幽芳の挿絵を描いている。

 

英朋と清方は日本画の結社「烏合会」の良きライバルでしたが、挿絵の仕事は多忙で清方は体を壊したこともあり、挿絵から本絵の世界へ転身する。一方、英朋は扶養家族が多く身動きがとれず挿絵の世界にとどまったことで忘れられていった。近年の再評価はめざましく嬉しく思う。

 

 

鰭崎英朋の挿絵

 

再評価のきっかけになったのは、弥生美術館による展覧会と、展覧会に合わせて松本品子編集『妖艶粋美:蘇る天才絵師・鰭崎英朋の世界』が出版されたこと。英朋の挿絵についてはわりあい早い時期から蒐集していたので、半端なコレクションも含めて自慢している。まぁ誰も感心してくれませんが(笑

 

コリン・デクスターによるモース主任警部シリーズ第13作最終巻『悔恨の日(1999)早川書房』その山田正紀のあとがきに、そもそもモース警部シリーズにあっては、結末の意外性にではなしに、倫理の華麗な展開にこそ重点がおかれてあって、かりに小説に終わりが不要というのであれば、その論理は永遠に転がって、ついにやむことがないはずなのだ。

 

多分、デクスターは自分の小説に結末は要らないと思っているのではないだろうか。このとりとめのなさは人生そのものに似ていて、結末はあるにはあるが、単に延々と繰り返されたエピソードにすぎない。したがって意外な結末が期待されるということもなければ、総じて平板な印象が残される。

 

コリン・デクスター:悔恨の日(1999)早川書房

 

モース警部の繊細にして不遜、天才にして無能、好色にして純情、博識にして無知、大酒飲みで、吝嗇で、孤独で。…多分、本国の読者は、モース警部に自分の姿を重ねあわせていたからこそ、このシリーズが終わることにあれほど(読者の抗議が激しく作者は会見を開かねばならなかった)反発した。

 

上記のように、山田正紀はモース主任警部シリーズの本質をよく伝えていて(勝手にダイジェストさせていただいた)このあとがき以外に付け加えるべきことがあまり見当たらない。ただ、ホームズやポアロよりも愛されたともいわれるモース主任警部シリーズのラストは、これ以外になかったのかなぁ…

 

 

 

モース主任警部最終巻に寄せて

 

沈黙は他人ひとの夢のなかを歩むごと疚しくもつむがれていく

 

 

でこぼこの道は終わりをまえに荷車は揺れ粉々に砕けてしまい

岩波書店のPR紙『図書』に連載されていた新関公子『東京美術学校物語—西洋と日本の出会いと葛藤(全15回)』が終了。毎回コピーをとっていたので自前製本した。

 

本著は岡倉天心とフェロノサによって創設された東京美術学校の沿革史で、江戸時代に移入された「遠近法」から書き起こされ、近代に入って設立された工部美術学校、そして明治20年にその工部美術学校を改変して誕生した東京美術学校の戦前までの物語が語られる。

 

資料の大元は『東京藝術大学100年史(全11巻)』で(教育資料編纂室非常勤講師という恵まれない身分の)吉田千鶴子さんが30年かけて、ほぼひとりで編集著述した労作とある。「彼女こそ美術学校史を語るべき人なのだが」惜しむらくは、その吉田さんが4年前に亡くなられたため、かつての同僚である新関が任にあたったとある。

 

新関公子:東京美術学校物語(2024)図書

 

美術学校の変革史とはいえ政治・権力抗争から逃れられず、また激変する近代の諸事情が指導者や多くの美術家たちを翻弄していく。きちんと歴史の明暗が書き込まれていて、美術史の流れを浚うに好著であります。いずれ(おそらく若干の改稿を経て)出版されるのを楽しみに待ちたい。

 

製本にあたって、やはり『図書』紙上で1年間連載された佐々木孝浩『日本書物史ノート』のコピーも収録した。ほどよい分量で満足している。

杉原愛子:全日本体操個人総合選手権 2024

 

先週末に「全日本体操個人総合選手権 2024」が開催され、村上茉愛引退後の全日本エース宮田笙子が貫禄の優勝。その宮田を描こうと思っていたが、2022年に引退したものの、昨年に現役復帰を果たした杉原愛子の床演技がすばらしかったので、杉原を。

 

体操競技の採点はやはりテクニカル中心で、フィギュアスケートのような演技構成からの評価は低い。体操も(特に床演技などは)フィギュアスケートでいうところの「エキシビションのようなものがあったらいいのに」と常々感じる。杉原愛子の演技は観客を巻き込もうとの意図(意志が強く)が感じられて、体操界の変化を期待したくなる。

 

杉原愛子引退&宮田笙子NHK杯優勝(2022)

 

また杉原は、コーチ業やSNSを用いた発信、商業施設でのイベント演技など、体操普及のための会社TRyAS(トライアス)」設立を発表「体操をもっと広めたい、楽しんでもらいたいという想いを込めて」23歳で社長に就任した。

 

また、性的に見られがちなユニフォームに一石を投じるべく、今大会でも自らその改良型ユニフォームを着用し、メタ体操系の印象が強い同競技に新しい風を呼び込もうとしている。

 

男子は橋本大輝が優勝、3位に萱和磨が入り、このあたりは順当に思えるが、2位に岡慎之助が割り込み次代のエースに名乗りを上げた。一昨年の全日本個人総合を3位で通過しながら、決勝で右膝前十字靱帯断裂の重傷を負ったシーンを覚えている。一ヶ月後のNHK杯が楽しみだ。

 

 

「桜華さくらかの短歌うたなど詠めるかよ」いまさらに

 

 詩うたなくも桜はさくら