里見弴。陥没(凡夫愛)清水三重三の挿絵 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

里見弴:陥没(1924)大阪毎日新聞

 

里見弴が大阪毎日新聞に連載した『陥没(1924)全150回』後に『凡夫愛』と改題され出版された。里見弴といえば『里見弴 小津映画原作集 彼岸花/秋日和(中公文庫)』が出版されているとくれば、作風は小津的人情の機微を描いたものが多いらしい。

 

「らしい」と述べたのには、実は里見弴とは不縁であまりきちんと読んだ記憶がない。有島武郎・生馬を兄に持ち、兄の友人志賀直哉の強い影響を受け『白樺』創刊に参加という筋・育ちの良さに反感を持ったか? 新聞小説の切抜きを入手後数年してようやく製本する始末である。

 

ただ『陥没』の書き出しは、前年(大正12年9月11日)の関東大震災勃発時から始まっていて興味がわく。黄金週間の時間つぶしにしようかな。

 

里見弴:陥没 第1回/煙雲

 

挿絵を担当したのは清水三重三で、いつもとタッチが違うのでちょっと驚いたものの、確かに大震災の書き出しなのに、いつもの細ペンを使った小唄調子ではね。もっとも当時の挿絵師はさまざまなタッチで描き分けたていたから問題はなかったのだろう。そういえば、舟橋聖一『白い奔流』の挿絵なども描いている。

 

 

 

地震のシーン

 

 

美緒子

 

ちょっと(大正末・昭和初期的)フォーヴっぽいタッチで、騒然とした火事場を表現している。もともと(歌舞伎絵で鍛えた)三重三の女性画には定評があり、ここでも遺憾無く発揮している。三重三の原画や書籍を幾点か所蔵しているので機会があったら紹介したい。