新関公子。東京美術学校物語 私家版 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

岩波書店のPR紙『図書』に連載されていた新関公子『東京美術学校物語—西洋と日本の出会いと葛藤(全15回)』が終了。毎回コピーをとっていたので自前製本した。

 

本著は岡倉天心とフェロノサによって創設された東京美術学校の沿革史で、江戸時代に移入された「遠近法」から書き起こされ、近代に入って設立された工部美術学校、そして明治20年にその工部美術学校を改変して誕生した東京美術学校の戦前までの物語が語られる。

 

資料の大元は『東京藝術大学100年史(全11巻)』で(教育資料編纂室非常勤講師という恵まれない身分の)吉田千鶴子さんが30年かけて、ほぼひとりで編集著述した労作とある。「彼女こそ美術学校史を語るべき人なのだが」惜しむらくは、その吉田さんが4年前に亡くなられたため、かつての同僚である新関が任にあたったとある。

 

新関公子:東京美術学校物語(2024)図書

 

美術学校の変革史とはいえ政治・権力抗争から逃れられず、また激変する近代の諸事情が指導者や多くの美術家たちを翻弄していく。きちんと歴史の明暗が書き込まれていて、美術史の流れを浚うに好著であります。いずれ(おそらく若干の改稿を経て)出版されるのを楽しみに待ちたい。

 

製本にあたって、やはり『図書』紙上で1年間連載された佐々木孝浩『日本書物史ノート』のコピーも収録した。ほどよい分量で満足している。