サイモン・クイン。最後に地獄を見た男 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

映画 薔薇の名前(1986)

 

サイモン・クインのインクィジター・シリーズは邦訳分全4巻、作者のクインは、あの『ゴーリキー・パーク(1981)』マーティン・クルーズ・スミスの別名義の作品。Inquisitor インクィジターとは「異端審問官」のことで、異端審問官といえばショーン・コネリーが扮した元異端審問官バスカヴィルのウィリアム。映画『薔薇の名前』の主人公である。

 

  S.クイン:最後に地獄を見た男(1974)創元推理文庫

  S.クイン:ミダス王の秘密(1975)創元推理文庫

 

主人公のフランシス・キリーは元CIAの異端審問官で、ヴァティカン市国に仇なす凶悪な敵に対する。ヴァティカンの諜報部員との設定で、武器は持たず、相手を殺さずという戒律に縛られている。万が一破ってしまった場合は、サン・ピエトロ寺院の地下にある修室に籠り、パンと水のみで15日間を過ごすことに。

 

いわゆる〝殺しのライセンス〟を持たない007の設定のコミック仕様になっている。緻密なスリラー小説を書くM・C・スミスにしてこのライトノベルかと驚かされるが、筆力は折り紙付き、まずまずのテンポで最後まで読ませてくれる。シリーズ3巻『ミダス王の秘密』が届いたところで紹介する。

 

Simon Quinn: Last Time I Saw Hell

 

原書の表紙は全きパルプ・マガジン仕様でなかなかキマっている。007同様しっかり女性にもモテるから、現今のフェミニズムの時流からは遠くミッキー・スピレインチャンドラーの時代を引きずっている。私のような旧世代がこっそりと楽しむための作品でありまする。日本版の表紙絵は若菜等。