水島爾保布。前田恭二 関東大震災と流言 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

大杉栄と伊藤野枝

 

水島爾保布『新東京繁昌記』は発刊前の検閲で「安寧秩序紊乱」の科で発禁の処分がくだされ、関東大震災体験記「愚漫大人見聞記」55ページほどが削除された。その削除部分を、改めて解説を加えて出版したのが、前田恭二『関東大震災と流言(2023)岩波ブックレット no.1083』です。

 

この発禁処分を受けた改定前の『新東京繁昌記』は、国会図書館デジタルライブラリーで閲覧できる(改訂版も閲覧可能)。しかも驚くべきことに、そのアップされた画像には、内務省の検閲官が検閲のために引いたと思われる棒線が残されていた。それによって、発禁部分が震災体験記に集中していたことが分かる。

 

前田恭二:関東大震災と流言(2023)岩波ブックレット

 

震災時にはさまざまな(大杉栄が朝鮮人にやられたといった)流言とともに、朝鮮人による暴動が起こったといったデマが拡がり、急遽結成された自警団によって朝鮮人が襲われる事件が頻発した。そればかりか朝鮮人以外の外国人、中国人であったり日本人すらも襲われる。

 

ここには、爾保布の友人(震災風景をスケッチしていた挿絵画家の)幡恒春が襲われ危うく難をのがれた経緯も述べられている。

また、暴動を制止すべき警官のなかには、逆に煽るものもいたと記載したことで発禁処分が決定されたのだろう。

 

なかなか興味深い内容で、問題の体験記「愚漫大人見聞記」は国会図書館のアップ画像から、プリント製本させていただき自前ブックレット(上掲写真中央)とした。